グラタンと呼ばれて
ブルース瀬戸内

星が眠る頃僕たちは起きる。
グラタン朝よ。起きなさい。
そんな母の声で目が覚めた
グラタンとは私の名である。

あのグラタンかとの質問に
真っ正面から答えてみたい。
そうだあのグラタンである。
熱々ホクホクでおなじみの
洋食の雄、グラタンである。

どうしてこうなったのかは
問い詰めないでもらいたい。
母や父は何も気にしないし
友人知人はいつもどおりだ。
なぜなら皆グラタンだから
というわけでは決してない。
私以外はグラタンではない。

正直なことを話してみるが
私以外が本当は何者なのか
私には見当がつかないのだ。
逆にいえばこういうことだ。
私がグラタンであることを
誰も知らないのではないか。
母は知っているはずだけど。

だんだん不安になってくる。
私は本当にグラタンなのか。
母が勝手にそう呼ぶだけで
私はその呼び名に安住して
自分を知る努力をしないで
謎を謎のままにしてないか。

本当の私は何タンだろうか。
グラタンと思い込みすぎて
有無を言わさずグラタンに
なってしまうのはごめんだ。
だが何タンなのか探しすぎ
何タンにもなれぬ可能性も
ないわけでもないのである。

私はある日母に問い質した。
私は本当にグラタンなのか、
実は違うタンではないのか、
驚かないから教えてほしい。

母は重い口を開いて言った。
あなたは勘違いしているわ。
あなたはグラタンではない。
あなたの名前はグラなのよ。

私は愕然として言葉がない。
母は躊躇もなく話を続ける。
グラだからグラたんなのよ。
子供にこんなこと言うのは
とても気が引けるんだけど
アホね。父さんにそっくり。

グラだからグラたんなのだ。
グラちゃん的なグラたんだ。
父は居間で大笑いしていた。
父さんにそっくり、てお前
と母にツッコミを入れるも
その後は貝のように沈黙し
今にも泣き出しそうだった。

父さんにそっくりなことが
私は嫌ではないよと言うと
父は泣いてからすぐ笑った。
母はグラタンを作り始めて
失敗したので寿司をとって
星が起きる頃に僕は眠った。


自由詩 グラタンと呼ばれて Copyright ブルース瀬戸内 2013-12-09 19:01:02
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