寝床からの日
番田 


パリの街は
特に珍しいものもない
立ち止まる時
運河を流れる水がある
今朝食堂でなんとか手にしたパンは
かりかりでおいしかった
奪い合いだった
団体客が来ていて
飯の
争奪戦だった


それから
どこに向かったんだろう
忘れた
オルセー美術館の
長蛇の列だったような気もする
半日以上歩いてまで
見るべきものは無かったが
セーヌ川で
あの日投身自殺をした詩人や
その美しさを
清くなめらかに歌った詩人を思う
あれは文学全集で読んだアポリネールという人だった気がする
近づけば大したことのない水色の川
偉大なのかどうなのかはわからないけれど


隣の駅まで
電車賃をけちって歩く時に色々な人と連れ立っている
広場には仕事帰りの人たち
かつて全国各地で戦ったナポレオンが船で
インドから運んできたといわれる
長細い石碑を見た
だけど
こんな人気のない角のところにある小さな公園にも
ディビュッフェの作品が一つぽつりと立っている
風に吹かれて無造作に
昔は印象派の画家の絵が
競うようにして所狭しと並んでいたという美術館で
写真作家の作品を見た
東京よりも
魅力的なように
見えるのが謎だった


閉館時間に
支配人にたたき出されて
ガス灯の色づく
コンコルド広場にぼんやりと立っていた
見知らぬ背中が人の並んだ列の先っぽで
サイン本を売るこぎれいで古ぼけた店のガラスの向こうを
見つめて帰った


自由詩 寝床からの日 Copyright 番田  2013-12-07 12:41:35
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