ビクトル君と月
ブルース瀬戸内

ビクトル君は考えています。
もっと早く告白していれば
アレクシアは悩むことなく
自分とつき合ってくれたり
しちゃったりしてほんとに
今頃大興奮じゃないのかと
ついつい考えてしまいます。

昨日、セルジオ君からもね
告白されてつき合うつもり
だからごめんねビクトル君
だなんてことは言われずに
一歩先んじていたのならば
自分とつき合ってくれたり
しちゃったりしてほんとに
今頃発熱しちゃったりして
人生変わったのではないか
そんなことを考えて考えて
だんだん悔しくなってきて
やけに明るい月を見上げて
なんでそんなに明るいんだ
おかしいじゃないかそれは
などと理不尽な愚痴を述べ
返ってくるわけもないのに
レスポンスを待ち侘びます。

やけに明るい月はそのまま
ピンスポットライトの如く
ビクトル君を照らし出して
悲しい顔やそこを伝う涙や
吠えてギュッとなった顔や
強く握りしめた両の拳まで
しっかりと照らし出します。

しばらくしてビクトル君は
やけに明るい月に吠えます。

セルジオより頼もしくなり
セルジオより優しくもなり
アレクシアよりもきれいな
アレクシアよりも華のある
素敵な女の子と出会ったら
今度こそつき合うんだから
もう今そう決めたんだから
これは変わらないんだから
後でなんか言ってきたって
もう僕は知らないんだから

そう吠えたところでやはり
月から返事はありませんが
月は少し眩しくなりました。
月は少し大きくなりました。
ビクトル君の瞳を覆う涙が
そうしたのかもしれません。


自由詩 ビクトル君と月 Copyright ブルース瀬戸内 2013-12-05 01:08:15
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