帰ろうという意志さえあれば 彼には道がわかるはず
Lucy

僕は目を瞑り
夕暮れの国道に彷徨う仔犬のことをちょっとだけ考える
カーラジオから明るい声が
逃げ出しちゃった犬の情報を
お寄せくださいと呼び掛けている
犬の種類 大きさ 毛の色
首輪 名前 特徴 癖 好きなもの・・
ことこまかく
愛する者の側から見える
愛されていた犬の輪郭

その犬ならあそこに居たよ
ここに居たよ
あの道で見たよ
あの方角に走って行ったよ
続々と情報が寄せられて
飼い主は
いちいち其処へ駆け付けて
右往左往しているらしい

すべてが善意の情報とは限らないから
いつまでたっても
犬はみつからない

仔犬は見つからないほうがいいのだ
僕は思う
だって逃げ出したのだから
彼は自由が欲しかったのだ
力試しがしたかったのだ
愛でがんじがらめにされた自らの輪郭を抜け
ここではない何処かへ
見たこともない自分を
探しに行きたかったに違いない


だがその代償は重い
今頃既に車にひかれているかもしれない
大型犬に出くわして
噛み殺されたかもしれない

それでも仔犬のために
祈るべきだ
その勇気を
讃えるべきだ
とそこまで考え
僕はちょっぴり馬鹿らしくなる

だいいち
そんなもん勇気でもなんでもないだろう
ただ無知なだけ
己の無力を知らないだけ


僕も同じなんだろうか
破れかけた雲を見上げて
もう何年も道に迷ったままの僕は
神様のことなんか思い出せない





自由詩 帰ろうという意志さえあれば 彼には道がわかるはず Copyright Lucy 2013-12-02 20:08:24
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