【非常階段】 詩サークル「群青」11月の課題「非」への提出作品
そらの珊瑚
非常階段には
扉があって
内と外が隔てられている
内のものかといえば
そうでも非ず
外のものかというえば
そうでも非ず
非常のために作られた階段
日常では使われない
避難通路
非常階段には
風が吹き
雨が降り
雪が積り
陽が照りつける
小さな踊り場で
病葉が息絶え
夜には灯がともり
白蛾が集まる
人が非常階段を必要とするのは
人生で
どれくらいだろうか
地を目指して
人がそこを下ってゆくとき
甲高い足音が反響する
反響が反響を呼び込み
非常は増幅し
うっかりすると
自分と同じ顔をした
他人が横を通り過ぎてゆく
急いでいるのに
足はもつれる
残像が乱反射していく
下を向いてはいけないよ
くるくると回っているうち
目眩に誘われ
転がり落ちてしまう
ここはすきまだらけだ
骨組みだけだ
荷物は置いてゆけ
命の他には何も持つな
手すりの塗装のはげかかり
にぎったそばから
ポロポロとくずれ
寄りかかってはいけないシロモノだと
告げている
重力以外のものを信頼し過ぎてはいけない
常で非ず
常で非ず
時には天を目指して
人はそこを上っていく
鳩よ
教えておくれ
今、わたしは何階までたどりついたのか
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「詩人サークル 群青」課題作品