桃。
凍湖(とおこ)

せんぷうきが ゆっくり 室内を見回し
ざわざわ うなじを撫でる。
そとはかんかん照りで
けさ干した毛布がベランダで揺れる。

さっきから
赤い目をしたコバエが、しつこく小指にとまるので
わたしは熟れた桃にちがいない。
ほほのまあるい曲線に
金色の産毛、ビロード。

呼吸、なだらかな運動。
ずっと、待っている。
わたしに包丁を刺しいれ
切り分ける、爪を。
わたしにとどめを刺す指を。

ぐずぐずに熔けてしまうまえに。


自由詩 桃。 Copyright 凍湖(とおこ) 2013-11-28 02:23:09
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