高速回転は余計なものを弾き飛ばしていく
ホロウ・シカエルボク




叫ぶことには理由はつけられない、それが真理に近ければ近い分だけ構造は複雑化していく、考えちゃいけない、頭で何とかしようなんて思っちゃいけない、そんな思案をしている間に果てしない遠くまで離れていってしまう、詩を忘れることはおそらくこの世で一番簡単な行為のひとつだ、目を開き、耳を澄ませ、ピンと張った一本の細い糸をちぎらないように、意識を集中させて、行き着けるところまで手繰っていかなくてはならない、手繰らずに済むものなんてなにひとつない、手繰らずに済むものなんてなにひとつないんだぜ、しくじっている間にいくつものフレーズを見失ってしまうさ、それがどんなものであるかなんて考えないことだ、そして、結論はなるべく先送りにすることだ、すべてが出来上がった後でなければ、辻褄の合う説明なんて決してつけられやしない、だって俺は、現在進行形の詩を生きているのだから、現在進行形の詩をぶつ切りにして、たとえば数日分の長い詩のひとかけらに、タイトルをつけて差し出しているだけなのだから、そんなものたとえばテーマでもなんでもない、伝えたいことなんてそこに特別存在しているわけじゃない、そう、これといって口に出せるようなものは特に、そうさ、俺が詩として差し出したいものは現象のようなものなのさ、言葉を使って現象の流れを描くんだ、わかるかい?そこには矛盾だって当たり前に存在する、真理といいながらそんなものどうだっていい、なんてね、だけどそれをどちらかにまとめることが果たして必要だと思うかい?俺たちが生きているこの世界は、俺たちが生きているこの人生は、どこかの線上のあっちの極とこっちの極、なんてものじゃないんだぜ、極があると仮定すれば、左の極から右の極に至るまでのすべての状態がそこには存在しているんだ、そしてそれは一点が移動するわけではなく、そこにもあればここにもある、あらゆる場所に同時に存在しているのさ、さまざまな処理が一斉に行われているんだ、大体人間の身体ってそういうものだろう?それと同じことが行われているのさ、だから俺たちは汚れながら浄化されているし、希望に満ちながら絶望に沈んでいるし、生きたいと願いながら死にたいと願っている、そのどれもが正解でも間違いでもない、そのすべてを一言で表す言葉なんてどんなに頭をひねっても造り出せるものじゃない、だからこうして、たくさんの言葉を使って記録していくのさ、今の状態を、今の言葉を、今の悟りや混濁を、それはたとえば地震を検地する機械のようなものさ、二本のアームを使って流れるままに状態を記録していくんだ、それはすべての人間にわかるようなものではないかもしれない、いや、おそらくはわからないやつのほうが多いだろうと思う、だけど、そうしたものの読み方をわかっているやつにはこちらが驚くくらいきちんと伝わるものさ、俺がやってきたことはそういうことなんだ、何度も試して、何度も確かめてきた、記録は確かに伝わるのだ、だから、記録し続けなければならない、ここになにがあるのか、俺はいったいどういう流れの中に居るのか、俺にもそれはわからない、おそらく一生それを確信することはないだろう、だけど、こうして出来る限りの生体を植えつけることに夢中になっていると、確かにここにはなにか無視出来ないことがあるのだという気分になってくる、確かに無視出来ないようなものがあって、それが俺を時々とんでもなく記録させる衝動に駆り立てるのだと、時刻はもうすぐ二十五時なろうとしている、まともな人間は眠っている時間かもしれない、馬鹿みたいに働いているやつか、まるで働いていないやつぐらいしかこんな時間には起きていないだろう、なあ、俺は時々こんなことを考えるぜ、こんな風に己の一時を記録しているやつっていまどれだけ居るんだろうってな、考えるんだ、こんな楽しみ方を知っているやつはどれくらい居るんだろうってな、しょっちゅう考えるんだよ、もしも俺と同じような書き方をしているやつが居るとしたら、そいつとはきっと尽きない話が出来そうだ、なんてな、そうして奇妙な夜が更けてゆくんだ、奇妙な夜にはうまく眠ることが出来ない、仮に運良く寝付くことが出来たとしても、なにか落ち着かない夢ばかり見てひどい目覚めを迎えるのさ、だからそんな奇妙な夜が来た時はこうしてぶっ飛ばさないといけない、まるでエアーで脳味噌の汚れを吹き飛ばすみたいにね、良くないものが溜まっていくのを排除しないといけないんだ、それは、スピードを上げることで成立するのさ、思考のタービンを限界まで回して、思考じゃなくなる速さまで回転させて、指先で記録していくんだ、高速回転は余計なものを弾き飛ばしていく、必要なものだけを残してすべてを吹っ飛ばしていく、ここにあるのはいまの俺の当たり前の状態さ、こんな風にいまこのとき俺は存在しているんだ、俺の言っていることがもしも理解出来るなら声を上げて答えてくれ、俺がここに刻み付けているもののことがもしもわかるなら、もしもそんなことが起こったら俺はたぶんすごくいい気分になるだろうな、だけど面倒くさいなら無視してくれたってかまわないぜ、もとより他人が必要な世界じゃない、だから俺はこれを選んで、続けているんだ。





自由詩 高速回転は余計なものを弾き飛ばしていく Copyright ホロウ・シカエルボク 2013-11-25 00:54:55
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