グリーンピースの意味
atsuchan69

魂を売りに骨董屋へ行った
もちろん詩人の魂は売れなかったが
特別な思想とか宗教をもたないのであれば
家の掃除とひきかえに昼飯を食わせてやると言われた
それじゃあ、と言って
骨董屋の凝固まった肩を揉んでやり
ふとんや洗濯物を陽に干して
便所へとつづく廊下を雑巾で水拭きした

昼飯は出前のカツ丼だった
卵でとじたぶあつい豚カツの上に
なぜかグリーンピースが散らばっていて
ボクにはそのグリーンピースの意味が判らない
骨董屋へグリーンピースの意味を聞くと
黄色い半月状の沢庵をポリポリ齧りながら
彼は「知らねえなあ」と言う

 だけども店によっては、
 三つ葉だったりもするけどな
 散らばったグリーンピースに意味なんかねえよ
 なんでまたそんな当り前のことに拘るんだい
 だから大概の詩人は貧乏だって相場が決まってるんだい
 グリーンピースの意味なんて考えている間に
 世の中もカツ丼も全く違うもんに変わっちまうぜ
 オメエさんも早く飯食って出直しな

そう言われてあわててカツ丼を食べ、
陰気な匂いの染みた骨董屋を立ち去ると
垂れた電線と様々に傾いた不吉な電信柱のつづく通りを
凄まじく勢いのついた裸の男たちが走りぬけてゆくのを見た
その形相たるや鬼のようであり、
どの男たちも楕円形の水中メガネを額に付けて
ピンク色の浮輪を左腕に通しパンツ一丁という格好だったが
まさかこんな寒空に海水浴へ行くわけでもあるまい
不可思議ではあるがボクはとにかく家路を急いでいたのである

どうにか家に帰ると、なぜか玄関前にATMがある
一瞬、これは便利だなと思った
近ずくと「いらっしゃいませ」の声がして
しかもATMの画面には「詩人の魂も扱っています」と
白い太字のテロップが左右に無限ループで流れている
他にも、特別な思想とか厄介な宗教も各種扱っているようだ
なんて便利なATMなんだろう
これならもう詩人でも困ることはない
安心して散らばったグリーンピースの意味を
死ぬまで考えられるというものだ

さっそくATMに魂を挿入すると千円札を三枚受け取り、
その金で本でも買おうとボクは軽やかに踵を返した












自由詩 グリーンピースの意味 Copyright atsuchan69 2013-11-21 19:21:15
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