疾走する文字列
hatena

キーを叩き。明朝体を墜し、青白む紙の上へ
滲み、昏い余白を点し、未到の雪のうえを歩
く、ポーチライトが続々と消えて、踝に光だ
けを纏い、潜り、息を止めて、そっと近づき。
加速度をつけた空が硝子の色を反射して、降
り。傾る風景がぼやけ、燃え、森が分裂を繰
り返し、蛍光みどりにひかるからだの、きみ
の身体を探し回り。監視衛星が打ち上がり、
空に黒い虹が架かり。雲は乱れ散る、鳥が砂
漠に落ちていき、滝が接がれ、溶暗し、片方
の目の、奥の底が眩み。沼に風を贈り、0次
元の丘を下り、誰もいなくなった部屋を去り、
窓枠をすべて取り払い。望遠レンズで星を捕
らえ直し、霧の中の街に途惑い、白い波をた
ゆたい。同じキーばかり殴り、淡くなるゆび
さきを想い、重い身体を引き摺り、偽のライ
トを浴び。蛍光塗料を塗りたくり、海を泳ぎ、
漕ぎ、意味もなく数を数え。瞳の上を走る、
走査線に微睡み、音もなく生まれる、電子の
子を孕み。唄だけを唄い、言葉だけを紡ぎ、
指だけを動かし、陶器の脳で思考し、破片の
四肢を引き剥がし。細切れの意識で引き続き、
上書きをくり返し、名前をつけて保存し、破
棄し、唾棄し、打ち上げ。花が幾つも群がり、
黄昏る空がひとつ浮かび、文字列を空に撃ち
込め。僕は色を失い、僕は音を漂い、黒い波
にたゆたい。また、ふりだしに、くり返し彷
徨い。               [EOF]


自由詩 疾走する文字列 Copyright hatena 2013-11-21 15:22:17
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