あのね
鵜飼千代子




昔とおんなじだったというのは
本当には少し違っていて

こうだったら良かったのにって
ふたりだった



会えば楽しいけれど
別れたとたんどっと疲れたり、

約束していても
行くのがおっくうになってしまったり

そんな
ぎくしゃくとした恋だった



クリアファイル100ページの裏表
わたしのことを書いたふたりの記録
ちゃんと取ってあるから


引っ越しの荷物のどこかに埋もれていて
最近読み返してはいないけれど、
他の誰かに閲覧させる文献ではないけれど

わたしたちにとっては
自らの研究材料として貴重な資料
門外不出だね



「これはね」
「むむ」
「ちょっとかっこつけた」
なんて、
いつか答えあわせが出来るといいね



「食べる?」って言われた
「食べて」ってねだった
ひとつだけ来たデザートは
半分にしてって言ったのに
へんな半分に切り分けられた
ので、ふたりで笑った



レジで、お会計を間違えられて
大丈夫だったんだけれど

その後の深刻な表情、
なんでかなって気になっている



エスカレーターの後ろの段で
白髪を発掘した

「表に出しとこ」と言って
「そっちかい」と笑われた



元祖「お兄ちゃんだと思って」の人

思い出を焼き直したよ



それぞれの住みかに帰る駅の地下道で
わたしが差し出した手を
ぎゅっと握った



「ダメだったわけじゃない」と
昔のふたりにナパージュかけて
今日の仕事に帰っていく


ありがとう
逢えて良かった











自由詩 あのね Copyright 鵜飼千代子 2013-11-21 00:37:02
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