赤・青・黄色
夏美かをる
赤は止まれ
青は進め
黄色は注意
生まれて初めて知った
極めて普遍的な社会ルール
それは母が私の手を握りながら
真剣な面持ちで教えてくれた
その日パシフィックノースウエスト地方を吹き荒れた嵐が
信号機から突然色を奪えば
たちまち巷は無秩序な渦巻の中
急ブレーキ音に
交錯するクラクション
ニアミス、衝突
幾つもの中指が立ち
Fワードまで飛び交って
あっという間に延びる渋滞五マイル…十マイル…
あちらこちらで牙を剥くカオスを
目の当たりにして初めて気づく
一定の間隔でリズミカルに点される
鮮やかなこれら三色によって
私達は心地よく管理されていたという事実
大都会東京の環状線でも
シアトル郊外のサードアベニューでも
南仏アルルの街道でも
ザンビアの埃っぽい市道でも
赤は止まれ
青は進め
黄色は注意
但し日本以外の国では青ではなく緑
日本人独自の色彩解釈で定義された
青色の、非普遍性
それは中国語訛りの無愛想なドライビング・インストラクターが
たった一語の英単語で教えてくれた