家霊
イナエ

人の体温に恋して
霊は家に住み着くらしい
頼んだわけでもないけれど
周りにたむろする木や草の
のぞき込む好奇心を追い返し

昼間 人が出かけても
テーブルの下 柱の陰
ドアの後ろの暗がりを見廻って
留守を守り 家を護る

夜になると
風の圧力でゆがんだ壁や 
熱膨張で反った天井を
寝息に紛れて ギリッと直し
人の重みに歪んだ床を
寝返りに併せてミシッと正す

住む人をなくした家は
遠くからでもわかる

人の温みを失って 家霊は去り
風や木 草の好奇心に撫でられ
しゃぶられ 血塗られて
屋根がひずみ 梁がたわみ
壁にヒビが入って
死んでしまった家の
うすら寒さが漂っている



自由詩 家霊 Copyright イナエ 2013-11-04 09:49:22
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