冬と檻光(十六の視花)
木立 悟





花が流れる
路を川を空を径を
鐘の音も見張りも
気づかぬうちに


喪服の赤子
灯台を覆う花嫁
濡れながら
うたいながら


百合のむこうの枯れ野
変わりつづける色
夜の音 午後の音
無数の指先のような暗い光


何が何を照らしているのか
片方の目にだけまばゆく
水の底まで
赤と緑の羽はつづき


人の住処は
水のかたちに並び
ある日消え去り
火の芽を残し


けだものの会話 響きの行方
径の上の小さなこだまを
鳥の姿の渦や虚ろが
ついばみながら巡りゆく


手の甲の老いた脂にも
引き返せないうたは宿る
燃しても燃しても星の下に
残りつづけるまだらな鏡


牙の内の浪を疑い
咬みちぎろうとする笑みを信じた
無数の首の無いイカロスが
太陽のまわりを取り囲んだ


終わりのないはずの本の終わりに
硝子と血で書かれた古びたはじまり
幾度もうなずき 崩れる街の
上にも下にも生まれる生きもの


咽から髪へ飛び去る痛み
数光年の手旗の変化
何も信じようとしない鳥たちが
漏斗の光に散ってゆく


闇を持ち上げる手のにおい
霧の林の途切れるところ
扉と門に
いつまでも残る穂のかたち


水を混ぜる水
夜の指
丘を上る雨の瞼
こがねとこがねにはさまれた径


凍りついたからくり
時計塔の千年
降り来る花にひらかれる
花咲くことのない茎の腕


ひとつのこだま
折れた階段
耳ふさいでも
響くこがね


壁を囲む鉄の柵
昼を歩く姿なきもの
風は音をしまい込み
冬に背を向け じっとしている


陽が戻り
午後に沈む街を照らし
鐘は鳴り 見張りは目覚め
ひとりの花の出発を
見逃すように見送ってゆく























自由詩 冬と檻光(十六の視花) Copyright 木立 悟 2013-10-31 11:37:55
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