草野春心



  旅になど出たくなかった
  わたしは 部屋に鍵をかけた
  カーテンをひいて静かな音楽をきいた
  水をのみながら 岩間を抜けるほそい風のような
  詩の言葉を待とうと思った



  時間は
  青空と木々と土と それから
  愛するひとたちのにおいがする
  わたしは桜をしっている
  くらげのでる 晩夏の海辺で
  あなたとしたくちづけの あのさびしさも……
  旅になど わたしは出たくなかった 出なくてもよかった
  こうして 静かに 目をとじているだけで




自由詩Copyright 草野春心 2013-10-31 00:37:40
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