フレンチトーストとおちょこ傘
そらの珊瑚

雨が降っていた

同じ小学校だった女友達と
ゆうべ電話で話す
今度何十年かぶりにする
同窓会のこと
思い出話なんかも取り混ぜて
時々あったお弁当の日
彼女のお弁当箱には
美味しそうな食パンが入っていた
フレンチトーストを初めて知った日
昨日の残り物の煮物なんかでごまかす自分の母親がうらめしかった

       
「カンちゃん、覚えてる?」

 「うん、覚えてるよ。元気かなあ。

    十五年くらい前の同窓会で会ったきりだけど」

 「亡くなったんだよ」


自殺だったと彼女から知らされた

カンちゃんはクラスのリーダー的存在で
どことなくおじさん的風貌の頼れるやつだった
雨の日
傘をおちょこにして男の子同士ふざけ合ってる姿を見て
カンちゃん やっぱり小学生だったんだって思った
雨を集めてるんだ、としょうもないことを言ってたっけ
私も小学生だったんだけど
ねえ、カンちゃん、集めた雨を捨てるにはまだ早すぎたんじゃないの

彼女に最後に聞いてみた
お母さん、料理上手だったんじゃない? って

今朝も雨が降っています
ハンカチ持った?
弁当持った?
帰りは何時?
じゃあ、いってらっしゃい
いつものように
矢継ぎばやに家族を見送る

覚えておこうと思う
晴れの日も
雨の日も
慌ただしく過ぎていく日常のなかで
みな等しく永遠ではない命を
誰かにもらっていることを
卵と砂糖と牛乳を混ぜた液体に
浸せば固いパンが柔らかくよみがえることを
時々は昨日の残り物でごまかしながら

ずっと覚えておこうと思う


自由詩 フレンチトーストとおちょこ傘 Copyright そらの珊瑚 2013-10-25 11:39:26
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