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はるな


宝籤はもうずいぶんりっぱな犬になった。しっぽのわずかな先と、胸もとと、それから腿のうしろにも毛羽立つような白い毛が生える、黒い犬だ。しっぽは太くてたっぷりしていて、よく動く。
雨のあがったきょうみたいな日には、宝籤は日のいちばんあたるリビングの窓の右はしへ陣取って、湧き水のような寝息をしている。体が大きくなっても、ちょうちょの影にもまだいちいち怯える、かわいい宝籤。


ひと月の予定で実家へ帰ってきてから二十日あまり過ぎて、まいにち眠ってばかりいるけれどおそろしい夢ばかりみる。おそろしい夢というのは都合の良い夢だ。手垢もついていない、ほこりもかぶっていない、そういう「続き」の夢。その内容をまだ書き起こせないくらい、わたしはそれに拘っている。許すこと以外の終わりかたがあるのかと疑問に思う、ないと思う、でも、許すことがでいないと思う。

妊娠の経過に伴って、だんだん体重が増えていく。下着のサイズがあっというまに変わってしまったのには驚いた。それなのに結婚指輪がすこし緩くなったように見える。でもわたしの指はすこし関節が太いので、そのためにもともとすこし緩いものを選んでいたのだっけ。夫は時々しか結婚指輪をつけない(その理由はわからない)ので、わたしの指輪と、夫の指輪を見くらべるとわたしの指輪はすこしくすんで見える。

わたしの母は活発なひとで、さいきんはアロママッサージを勉強していると言った。試してあげる、と右腕をマッサージしたあとで、左腕もやってあげる。という言葉に、恥ずかしいから。と断ったもののいいから、と言ってはじめたあとに、「左のほうがほそい。」と言った。


十月三十一日がじきにくる。



散文(批評随筆小説等) 10 Copyright はるな 2013-10-21 11:16:52
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