陽の光の歌
草野春心



  その日、
  蝸牛はコンクリートの塊のうえで
  止むことをしらない陽の光の歌をきいていた
  雨の降らない季節に彼らがどこにいるのか私にはわからない



  あなたの稲穂色の髪の毛がひとつ、
  最期の息を吐くように静かに落ちたとき
  私の腑の底のほうで すみれの花が一輪だけ咲いた
  言葉は
  風に擦れて
  路上をつめたい影で濡らす
  シャッターのおりてしまった寝具店の前で
  いつまで待ってもやってこないバスを待ちながら
  止むことをしらない陽の光の歌を 私たちはきいていた



  腰かけたベンチの 喘ぐような軋み
  衣ずれのようにささやかな 人々の声
  秋の朝の風に あなたが少し 肩を震わせたこと
  あなたの笑みでさえ やがて褪せていくのが
  透明に歪んで 遠くへ消えていくのが
  私には
  何よりも
  悲しかったということ





自由詩 陽の光の歌 Copyright 草野春心 2013-10-19 21:14:16
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