風に似た生き物
草野春心



  白鳥のいない湖はだれのものだろう
  わたしは随分長い時間待っていた
  藻の緑に染まった水面に 静かな波紋が広がる刹那を
  何かによごされた羽が 目を逸らした隙に
  そっと浮かんでいるのを……
  いくつかの車輪が素早く回転している
  財布の中の硬貨が賑やかに擦れている
  松尾芭蕉の滋味ある一句を わたしは思い出したい
  どれかひとつでもいいから……思い出したい
  林のほうで、
  風に似たさびしい生き物が
  右へ、左へ 右へ、左へ 動いている




自由詩 風に似た生き物 Copyright 草野春心 2013-10-19 10:20:55
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