鰯の頭 (想起させるものに、忠実に)
乾 加津也


陸に上げれば
日保ちのしない魚で
「卑しい」が名前の由来だと

腐って臭うので
頭を、柊の葉の刺と合わせて
節分に鬼の退治といわれた、モノで
これがまた平安と呼ぶ
わたしには途方もない時代に端を発すると
インターネットは自慢げに
おまえをとんとん弄ぶ

鰯の頭ほど値打ちがない
という意味で
だれにもかれにも取沙汰されるわけだが
これが一転、信心ともなれば
ふかく首(こうべ)を垂れ、どこかのだれかはおまえの前で
熱心に願掛けなども、するかも知れぬと

だから、どうでもよい魚かといえば
決してそうでもなく
卑しくとも
稚魚なら、シラスとして食するまた別の味わいもあり
我らひとが、あってこその
立派な大衆魚であって
これからもかつと目を見ひらいて
背筋を伸ばし
悠々自適に遊泳(くら)してほしい




これまで
気の遠くなるほどの沢山の鰯がひとに食われた
見上げれば
いわし雲(うろこ雲とも呼ばれるらしいが)という
これまたおびただしい数の鰯がみな同じ向き
空一面に敷きつめられて
一匹いっぴき
赤くこんがり、寝かされている
こともある


自由詩 鰯の頭 (想起させるものに、忠実に) Copyright 乾 加津也 2013-10-18 20:38:35
notebook Home 戻る