金木犀の祈り
夜乃 こうもり


澄み切った青い空の真ん中で
誰かがきっと泣いている

私はいつも測れずにいる
空想の両手を天秤にして
小さくついた溜息と
少しだけ擦り切れてしまった
透明な羽毛の内包する
輝くような価値と
その意味について

白い月の乾燥した叙情
太陽の発散する苛烈な激怒
時の流れを写した銀河の大瀑布
無限と錯覚するような極大の中の
それらを知覚するだけしかできない私

遥か遠くの秋空で
たぶん誰かが泣いている

小石のちっぽけな自尊心と
萌える草原の他愛のない日常会話
その上を吹き渡る一陣の風の自由な広がり
みんなみんな忘れてしまった

忘却さえも忘れてしまった
無感情なる人々の皺のない顔

私は祈りを炎に換える
もう誰も悲しまぬよう
祈りの力がもっと強くありますよう
祈りの形に組んだ両手に火を灯す

黄金に似た炎が燃え上がり
人々の異なる表情を浮かび上がらせると
存在さえ疑うような闇が訪れ
星の見えない暗い宇宙を
金木犀の儚い祈りが霧散していく




自由詩 金木犀の祈り Copyright 夜乃 こうもり 2013-10-18 04:13:26
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