セミ
ReAg

「      」

尊厳を埋め立てた丘で
植物の生殖器を切り取った
悪趣味な束を投げ捨てた
ぼくは自分を刺すのに十分な言葉を持って
だけどそいつでは目の前の石を砕けずにいる

セミはジリジリと自分の乾くまでの秒を刻んで
耳を塞げば別のなにかが息を止めようとする
それでも忘れたくないもののために
赤色をずっと廻し続けるんだろう

「      」

愛の無いセックスに意味は無い
なのに泣き笑いをしながらぼくに
刺されてしまったんだと言う

誰にも望まれなかったことを望まず受け入れた日
じぶんの体じゃないもので血を流してしまった日

辞書には載っていないし頭で考えても分からない
茶色く汚れたブラウスを引き寄せても
ぼくの頭はぼくのもののままだ

「      」

ようやく街の喧騒に目を背けずとも
歩き出せるようになった頃
憎たらしいほど幸せそうなふたり達を
縫い合わせるようにぼくらが足しげく通った場所
あの頃のセミは今
雪の中で何を考えているのだろうか
何層にも積み上げてきた巡り巡るもの
身に宿し散っていくために刻んできた秒数
誰もが望んでいることならばぼくらももう少し位

次は何に生まれたい?
そういう質問を声の無いオペラ歌手みたいに
強引に押し付けられた茶色に問いかけるみたいに
声も選択肢も無いところに捻じ込まれた回答ごと逆さま
生まれる時みたいに

それなのに最後の最後
己の脳が潰れるまで子どものそれは守った
だって逆さまだったから
母になってしまったんだよ

気づいてあげられなかったんだ何一つ

なあお前に何をしてやれたんだよ
無力だとでも思っていたのかよ
少しくらい土を払ってお前の話を聞いて
一緒に泣いてやることだってできたし
お前が望むなら望まれない子供だって望んでやるよ
そいつのことを見つけ出して殺したっていい
そんな風に思っていたよいつだって
だけどお前はいつだって笑うし
変わらないフリを続けるし気丈すぎたから
細くなっていく手首だっていつもより綺麗な靴を履いて
家を出て行ったことに気づいた時だって何一つ分かってやれなかったんだ
分かってるよぼくが本当は馬鹿なんだってこと
だけどもうちょっとやりようがあったと思うんだ
思わなきゃやってられないんだよ
思わせてくれよ

「      」

尊厳を埋め立てた丘で
皮肉みたいにさあ
こんなもの欲しいのかなって思う
何をしてやれたのかとか
何をしてやればいいのかとか
ぼくは目を閉じて自分の赤色がめぐる音より
もっと繊細で小さな
地中深くに潜んだ言葉達のただ一つを懸命に
懸命に探してみるんだ


自由詩 セミ Copyright ReAg 2013-10-18 03:02:44
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