ふたつ ひびき
木立 悟




暗がりを廻すまばたきについて
本をひらけば忘れてしまう
脆くまばゆい粉について
うたうことは覆うこと
それでもけして埋まることのない
ひとりとひとりのはざまについて


宙に漂う矢印は
次も方も示さずに
ただ隣り合う無に刺さり
明るい曇になってゆく


昼と午後を貼り合わせ
夜の前に置いている
無数の梯子を外された暮れ
誰も渡らぬ橋に満ちる


カストル カストル
荒れゆく庭の片方を
ただただ見ていることしかできず
わずかに照らすことしかできず


雪を噴き 光を噴く
夜の街の輪郭を
色は色を失ったまま
呼吸のないままふちどってゆく


冬と鳴動 光の金属
やわらかく洗われ 血を流し
霧を見つめるひとつ目に
流れ星の雨の傷は降る


失われたものは常に戻り
また失われ また戻り
また失われ また奪われ
生きてゆくものたちは
生きてゆかざるを得ぬものたちは
目をふせ 傷に微笑んでゆく


ポルックス ポルックス
千年が経ち
わたしが居らずあなたが居るとき
廃園の一部 午後の一部を
あなたの海に浮かべてください


廻る楽器 水紋の色
あやふやな姫 赤子の波
結ばれ切られ うたう河口
目をひらけば忘れてしまう
真昼の光に忘れてしまう


証言者も記述者も
道を曲がり 消えてゆく
言葉を知らぬものたちが
崖に集い 崖を見ている
果てのむこうの
果てを見ている


岩肌の空
夜の雨
川辺を歩む冬の音
何も言わず 見つめかえす
片目の双子を 見つめかえす






















自由詩 ふたつ ひびき Copyright 木立 悟 2013-10-15 14:17:06
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