ぶかぶか【詩サークル「群青」九月のお題「音」から】
そらの珊瑚

母の手作りする洋服は
大体において
あらかじめ寸法が大きかった
未来が足されていたから
子どもはすぐ大きくなっちゃうからって
それは言い訳というより
有無を言わせない印籠のように掲げられた
スカートの裾はたっぷりと折り曲げられていて
それは翌年にはするするとほどかれたが
しばらくは折り目が消えず
不細工だったであろう
けれども現実とはそういうもので成り立っている、
として妙に納得していた
わきも
くびのあきも
丈という丈が
ぶかぶか言って
借り物であることに
持ち主の代わりに文句言ってるようだった
もう今は
なにもかもが
ぴったりで
あのぶかぶかは戻ってこない

長靴の隙間から
雨水が入ってくる
足と長靴の内側に出来る
ほんの少しの空気に入りこんだ泥水が
歩くたびに
ぶかぶか鳴った
気持ち悪さが
愉しさを上回り
懲りないわたしの長靴は
水たまりを素通りできずに
景気よくそこへ跳び込んだ
そのあとは 
ひたすらになまぬるく一歩ごとに重くなるのに
なんの得にもならない
歩くだけで変な音の出る楽器を
家路をたどる友にしていた遠い日

ぶかぶか
余白が奏でるミョウチキリンな音を
愛していた



自由詩 ぶかぶか【詩サークル「群青」九月のお題「音」から】 Copyright そらの珊瑚 2013-10-02 13:57:57
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