美しい死
まーつん

 豊かさで生を飾りたて
 その終わりまで、しがみ付く
 爪を現世に突き立てて

 煌めく衣装を脱ぎ捨てれば
 露わになるのは、荒れ果てた魂

 電池のように使い切ったら
 死出の寝床に、潜り込む

 居並ぶベッドは
 見渡す部屋の遠くまで
 数え切れなく、整然と続き

 拘束された身体
 気管に差し込まれた管
 虚ろな目は天井に向けられ
 見えない空を、見つめていた

 僕は、枕元に立ち
 命の沼から立ち昇る
 たじろぐ様な、腐臭を嗅いだ

 そして、
 言葉が綴られる

 壁に四角く切り取られた
 窓から注ぐ午後の光に
 彼等の声が、無言の声が、
 刻まれる

 もう一度歩きたい
 この足がまだ、動くうちに

 もう一度歌いたい
 この声がまだ、届くうちに

 それを阻むのは医療の手
 生き永らえる日数が
 多い程よいと競い合い
 無理はおよしと、通せんぼ

 自由とは、何なのか
 命とは、尊厳とは

 幼児言葉で語りかける
 病院の職員たち

 身体ばかりに気を取られ
 永の年月に蓄えられた
 心の実りには気付けない

 猫なで声ではねつけられる、老人の願いと
 ペットのようにあやしつける
 若い指先の冷たさ

 心の奥で身悶えする、良心の声に蓋をして
 もがく魂を、ベッドに押し込む
 手際のいい介護人たち


 美しい死


 それは、
 ただでは手に入らないが
 人生を全うしてきた者たちは
 誰もが、支払いを済ませたはず

 そうは思っても、十羽一からげ
 流れ作業で身綺麗にされ
 迷える心は置いてけぼり

 彼らの知恵は顧みられず
 彼らの目は、今も尚
 過去ばかりでなく
 現在にも、向けられているのに

 その想いは届かない


 美しい死


 お前をまだ見たことがない
 すべてが金ずくの、この世界では

 無償の愛と同じように
 お前は、絶海の孤島に広がる
 密林に羽ばたく、幻の鳥


 美しい死よ


 お前の羽音を
 聴いてみたい

 
 力いっぱい生きた命が
 黄泉の旅路に飛び立っていく、


 誇りに満ちた
 羽ばたきを





自由詩 美しい死 Copyright まーつん 2013-10-01 20:06:18
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