名月の下で
砂木

会社の帰りがけに車を左折させる
道から少し離れてある実家の林檎畑が見えてくる
減反した田んぼに育てた林檎の木
今はこの世にいないはずだが 父の幻がいる
畑が物陰になり見えなくなると
右側の田んぼ中に 実家のお墓が見える
父さんと 新しい墓標に車の中から叫ぶ
そして実家に寄り 仏壇を拝み母と話す
父が死んでから毎日のようにくり返してる

夜 眠ろうと灯りを消すと
屋根の上を歩くような 階段を歩くような音がする
父さんだろうか 耳をたてるがよくわからない

まだ明るいうちの寄り道だったが秋になり
会社帰りの左折も 月の夜になってしまった 
畑も良く見えない お墓も
でも今日は満月に照らされて かすかに滲む
父さん 骨になっても同じ月をながめている

拝んで叫んで 母と父の話をし続けて
やっと最近気づいてきた事
父は死んだらしいという事
こうも受け入れられないものだとは思わなかった
安らかに眠りについて欲しいのに眠らせないのは私だ
私が父を死なせない 死なせる事ができない
叫んで揺すって 死とはいったいなんであるのか
さっぱり理解する気がない

ごめんしてけれ 父さん
いまだに 死ぬなとしか言えない
病気で死ぬ事がわかっていたので言えなかった
いい加減な嘘でごまかし 医者に死ぬと言われたけど
直るようなそぶりばかりしていた
あまりの苦しがりようを見て なおさら言えなかった
死なないでと言う言葉が 父を安らがせない
いつか私も逝く時まで 待たせるわけにもいかない
会いたくても まだ死ぬわけにもいかない
苦しみは終わった どうか安らかにと思いつつ
私はまだ父を死なせられない なんとか ごめんしてけれ
 



自由詩 名月の下で Copyright 砂木 2013-09-22 08:35:09
notebook Home 戻る