花茎
sample
柔らかい楕円の香り
肌を透かせる真白な木綿
多角形の雨おとにふれた
水彩のゆびさきは筆跡を整え
ゆるやかに乱され
空白に孕んだ風を
あたたかい命と錯覚する
あかい器官をひとつ
平原で失くしたあなたは
いちばん古い湿度を探し
パルスを擬態する水紋の戯れに
人肌の流線を唾棄して
襟元に咲いた坂道を
かけあがる
あふれる息を噛みちぎり
滑らかにたちのぼる花茎は
吃音の蝶つがいを修繕し
中空に饒舌の羽を群がらせ
ほろびゆく花冠を
光へ手向ける肢体は
まるで螺旋だった
平原は青く静かに放火され
遺言に燃えうつる
肉声は複製され
明朗な音で窓を叩く
私の咽喉をたどる燻煙を
鳥瞰するあなた
優雅な、旋回