ひとつ 流転
木立 悟





深みどりの雷雲が
午後から夜へ沈みゆく
生乾きの蜜の壁
羽を持つ虫に埋もれながら
暗がりの履歴を見つめている


霧の頂点に落ちる光
窓の無い家に映る四角い明かり
壁を昇り
消えてゆく


葉の骨は真昼に青く
森に囲まれた湿地は白い
ほんとうのかたちを
流し去る水


陽を浴びた細い川が
傷のように分かれひらく
空のまばたき
岩を割る径


高い罅から
噴き出る曇
離れゆく明るさ
戻らない明るさ


野の隅の家
交差点
影はすぎる
暮れをすぎる


点描の呼吸
夜の砂
香りの限界
わずかに歪んだ同心円たち


光の花がひとつ
静かにうたっている
空は水に 水は水に
暗く広く自身を流す
























自由詩 ひとつ 流転 Copyright 木立 悟 2013-09-14 12:36:36
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