曜日感覚
rock

まっさらのシャツにボンゴレ・ロッソのトマトソースがついてしまう日曜日、葉巻を吸い紫色の煙をくゆらせるのはドン・カルネデス、追跡はまだ始まったばかり。
だれもがあの平和な午後を境にして、変ってしまった。カルネデスに関わったばかりに追跡者たちは幽閉され、競売はついにカルネデスの思うつぼになってしまう。

僕はある雨降りの月曜日、タクシーを止めようとしている韓国人女性をみつける。彼女の名前はルーシー。愛称なのか本名なのかわからないけど話しかけた途端に、名前を名乗ってくれた。ルーシーは夜の街のひかりのなかを泳いでいく。車道をよこぎってみずたまりを踏み、ひかりが弾けていく。靴を汚すこともためらわない。僕はルーシーから次の競売場所の地図を手のひらに託される。ルーシーはまたひかりのなかへ消えていく。

水曜日の朝。都会にそびえる森を歩きだす。孤独になって最初から考え直したかった。最善の手が僕にもまだあるのかを。それなのに、思いだすのは地図を受け取るときに触れたルーシーの肌の冷たさばかり。グレートマリオンパークは森閑としたしじまを湛えている。けれど煙草を買うためにちょっと公園を出て、路地を歩くともう雑踏に追い付かれてしまう。僕はカルネデスの部下たちが周りにいないか確かめる。少しずつ朝は時間と共に街に溶けだしていく。薄い雲の隙間から朝焼けのひかりが街にこぼれていく。

<カルネデス氏、心不全のため死去>。「モナリザ」が夜の街に微笑むのを見ながら僕は電光掲示板にその文字をみつけた。クラクションの音がひっきりなしに聴こえる。耳障りな不快な音。テールランプが明滅しながら、限りない数の車が目の前を走り去っていく。カルネデスが死んだ。僕の唯一の目的はいま消えたのかもしれない。
明日、再び日曜日の競売が始まろうとしているのに。

レヴィ氏が管理しているムトロリタという場所で競売は始まった。もうだれも時間を巻き戻すことはできない。鉄柵の扉は開かれて、世界の富豪たちはローマ神殿風に造られた建物のなかへ案内されていく。赤い絨毯が血で染まっていることに、馬鹿な金持ちたちはだれも気がつかない。ふいに僕は自分のシャツに紅いしみができていることに気が付いた?血?いや、違うボンゴレ・ロッソのトマトソースが洗濯しても落ちなかったのだ。


自由詩 曜日感覚 Copyright rock 2013-09-09 11:30:39
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