人形劇
春日線香

空の彼方に
雲がすばやく流れている時は
家のほうが動いているような気がする
そう考えると足元がぐらついて
ああでもないこうでもないと
心臓に暗い汁が溜まってきて
余計なことを考えないように
細い道の先だけ見ていればいいのに
水際に打ち捨てられた軽トラや
ねぎ坊主だらけの畑が迫ってくる
今こうしているあいだにも
地面の下を虫けらが食い散らかし
舞台はずぶずぶと
土に潜り込んでしまわないか
誰かが糸を切り離して
ころりと首が落ちてしまわないか
考えたところでどうしようもないが
一度気にしだすと心配はふくらむ
冷や汗を流して演技を続けると
おまえが気にしなければならないのは
あっちだよと言われて
鬼の指差す暗がりに
柳の下の客席は人であふれ
どの人もどの人も
火山灰で真っ白だ


自由詩 人形劇 Copyright 春日線香 2013-09-02 19:27:37
notebook Home 戻る