せっかちなバカタレ
一 二

あの一朝一夕を
あの病院で過ごしたこと

一年に365回やってくる内の
一回づつを無駄にしただけだった
バカタレな自業自得で
取るに足らない
無駄な時間を過ごしただけだった
そうであって欲しい

ことの発端は
己の自意識過剰と
頼りない浮遊感覚の
ちょっとした後押し
若者特有の
自発的な天啓だった

その日の晩は
一人焼き肉大会をやって
買ってきたばかりの
COMIC LOで何度もマスをかいて
一人マッドマックス鑑賞会をした
そこで終わればよかったが
心地好い高揚感を保ちすぎた
素晴らしい気持ちに拍車を掛けようと
意識が働いていた

革ジャンと革パンと
レーシンググローブと
レーシングブーツに着替え
愛車のNinjaに跨がった
気分はもうトゥーカッター
ワザと帰宅ラッシュで
混雑する7時ごろのバイパスに
向かいだした

自転車くらいの速度で
大混雑している自動車たちを
無能であると掻い潜り
スラロームのようにすり抜けた

するとピンクの軽自動車が
ウィンカーを出さずに
目の前に飛び出した
そこで意識は途切れる

再び目が覚めたときは
脳神経病院のベッドの上

トゥーカッターになりきりたくて
家を飛び出したはずなのに
気分はもう碇シンジ

次に気づいたことは
頭痛と脊髄と腰椎の痛み
そして痺れる左肩
俺は骨折をした

医者に一通りの説明を受けた
自分の脳のCTスキャンを初めて見た

保険屋に一通りの説明を受けた
俺が払う金は2万だった
愛車は原型を留めていなかった

親と友達に大丈夫であるとの報告をした
両親は揃って爆笑していた
友達だけが心配してくれた

昼過ぎに退院だった
暇だったので患者と絡む

奇声を挙げながら走り回る
米粒みたいに不自然な
陥没をした頭蓋骨のオッサン

ヘッドギアをして
ヨダレを垂らす爺さん

俺に将棋と囲碁と麻雀を
教えてくれた
両足骨折した兄ちゃん

どうやら
俺が検査入院で搬送されたこの階には
交通事故被害者が多いらしい

俺は偶然にも
被害者側でここにいるが
あの晩の軽率な俺は
加害者になっていても
おかしくはなかった

その時の俺は加害者
になるかもしれなかったのに
バイクを降りるつもりは
毛頭なかった

死ね


「バイクよりも車が安全」
なんて言う奴がいるが
自分が死ぬ確率が下がるだけで
殺す確率はだいたい同じだ

俺たちは皆
狂っている
狂い続けていれば
もっと狂う
狂い続けていれば
だれかを狂わす

俺たちは
雄叫びと黒煙をあげる
狂った鉄のマシンに股がって
己と他人の命を対価に掛けて
移動の時間を短縮する
それに気づいたところで
爺さんや婆さんになるまで
誰もマシンを降りない


読み取れたでしょうか
汲み取れたでしょうか
本当はそんなことなんて
どうでもよいのです
バカタレ狂人な俺は
今日もバイク通学いたしました
そんな感じでした


自由詩 せっかちなバカタレ Copyright 一 二 2013-08-26 22:57:26
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