色と羽
木立 悟






遠く水が閉じるところ
遅い秒針をかきわけ追いやり
夜は夜に身を起こし
剥がれこぼれる光を向く


すべてが昇る夕暮れに
ひとつ落ちる冬の爪
おまえは銀を忘れたというが
隠しきれない火をにじませている


鳥が帰る陽 無数の火の影
長くたたずむものを溶かし
あたりを見知らぬ笑みに満たす
偽の冬を売る 白い轍たち


曇が曇をすぎ
灰を鉛を銀をすぎ
何も残さぬまま土に降り立ち
多重にひらく夜明けを見ている


翼はまた尖塔をすぎ
見えない土煙の音を聴いた
海も陸も 変わりながら変わらず
それを記すものばかりが年老いた


消えようとする多くの母を
多くの子らが見つめている
遠去かる窓 朝の氷に
触れに来る羽


川に終わりを告げる間もなく
音はふいに光と消える
約束もなく 行方もなく
まとわりついて離れぬ白い蛾


冬の灯の盗人
むらさきを増す曇
色は時間を
静かに静かに掃き捨ててゆく


水は絶え 光は止まず
墓のような街をめぐる
夜も午後も昼も朝も
どこまでもおのれに似た爪を追う



























自由詩 色と羽 Copyright 木立 悟 2013-08-19 09:54:14
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