柑子色のパンケーキ
夏美かをる
下町の団地の小さな台所で
母が作ってくれたホットケーキには
必ず人参のすりおろしが入っていた
海を隔てた異国の地で
日曜日の朝私が作るパンケーキも
やはりほんのり柑子(こうじ)色
頭の中には常に百種の心配事
だけど胸を焦がす切なる願いは
昔も今もたった一つ
母なる大地から絞り落とされた
橙色の滴の中に
その生温かい結晶をそっと溶かし込んでみても
それだけでは苦い薬のよう
我儘で敏感な舌にすぐさま捉えられ
跡形もなく押し出されてしまう
面影が完全に消えるまで
薄められ 攪拌されて、
甘い蜜にどっぷりと絡まれて…
ようやくそれは辿り着く
無邪気に頬を膨らませているこの子達の
あまりにも澄んだ無意識の深層に