夏休み
nonya


切れ切れのあらすじ
離れ離れのせりふ
緑と青と白とその隙間にある
無数の明るい色と寒い色

大脳皮質の砂浜で拾い集めたら
海馬のカレイドスコープに仕込んで
いとおしむように回す

見えてくるのは遠い夏休み
今にも壊れそうで綺麗だけれど
それが夢だったのか現だったのか
もう分からない





遥かな山の辺まで続く
大きな長方形の連なりの中で
フェーンの熱風に弄ばれていた稲穂

うねる緑


パンクした自転車を放り出して
土手に寝転んで向き合った空

悔しい青


追いかけっこに夢中で
近づくバイクに気づかなかった
アイツの頭に巻かれた包帯

気まずい白


一度も美味しいと思わなかった
道端のスカンポの味

生温い黄緑


帰り道を等間隔にさえぎった
長いはさ木の影

しょっぱいオレンジ色


半分嘘の絵日記

やるせない24色


用水路の彼方に盛り上がった
フリーハンドの入道雲

ふくらむ白


ラジオ体操のカードをはためかせて
駆け抜けるトマト畑の向こうで
水蒸気を呼吸していた弥彦山

かすむ緑


村はずれの隧道を抜けると
いきなりせり上がった水平線

はしゃぐ青


鳥居の横に遊具を作ってしまう爺や
大人には変人だが子供には人気者だった
爺やの歯の抜けた笑顔

ちょっと淋しい茶色


隣町の花火に見惚れて
とけかけたシャービック

濃密な黒と色とりどり


僕より先に大人になったあの子

微かに痛い透明





海馬のカレイドスコープを背負って
時間の砂の堆積の中から
緑と青と白とその隙間にある
無数の明るい色と寒い色を探し当てる

夏休みの密かな課題は
僕の背中の裏側に
あの頃のざわめきを甦らせる

それが夢だったのか現だったのか
今ではもう分からないけれど




自由詩 夏休み Copyright nonya 2013-08-03 11:49:13
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