黒い手紙
まーつん
1
雨に打たれながら
空をふり仰ぐ
喜びは消えて
土に手を当てて
星の身体の温もりに
触れる喜びも奪われた
原発の吐息が
燃えている
風に乗り 雨に宿り
人の元に届けられる
それは まるで
黒い手紙のようだ
休日の朝に投函され
居間に持ち帰り
封を切る
広げてみれば
黒い文面
見つめても
何も読み取れず
視線はただ
闇の中に
迷い込んでいく
先の見えない
未来のように
2
利口ぶったところで
善人ぶったところで
見ろよ
このザマ
俺達は
この
青い星
生命の庭を
めちゃくちゃに
踏み荒らしてしまった
原爆 劣化ウラン弾
MOX燃料 制御不能の原発
科学という名の
よく切れる鋏で
切り絵細工を作り
この地上を
華やかに飾るかわりに
自らの腹に
突き刺してしまった
もしも
恥を知っていたら
こんな結果を招いた奴らは
恥ずかしくて
生きてはいられないだろう
だが 馬鹿だから
恥を知らずに
生きていけるのだ
いくら
知識があっても
使い方を知らなければ
何の意味もない
いくら
権力があっても
守る相手を知らなければ
暴君でしかない
3
だが
その恥知らずの中に
俺や あなたが
含まれていないと
どうして言える?
俺たちが抱え込む
無知や無関心
巻き込まれることへの
恐れ
それらが
目には見えない
放射能のように
将来を腐食して
いないと
俺たち自身を
踏みにじっては
いないと
どうして言える?
誰か目を
覚ましてほしい
そして
見つけてほしい
この目には
映らない何かを
他人の非を
責めているだけでは
決して見えない 何か
それを
教えてほしい
眠ったまま歩き回る
羊達の頬を叩いて
目覚めさせる者
あるいは
それが出来るのは
神でしかないのかも
4
原発の吐息
それは
黒い手紙のようだ
原発とは
胎に宿したわが子に
食い尽くされようとしている
傲慢な科学の産物
死の間際の吐息が
黒い手紙となって
届けられる
生命の源へと
その文字に触れると
染色体はほどけ
出鱈目にかき乱され
生命は理性を失い
己の姿を見失う
黒い手紙
差出人は誰?
それは
愚かな電力会社でも
無能な政府でもない
彼らだけの
責任ではない
自分たちには
正しいことが出来る、
という希望を手放した
俺、そして あなた
諦めに 満ちた
もう一人の
私たち
月の暗黒面から
可能性の墓場から
意識の裏側から
送られてきた
黒い手紙
そこに
綴られているのは
俺たち自身が
選んだ運命
過酷な