それだけでそこは海だった
モリマサ公

皮膚が青く発光しながら離れていく
わたしたちの本当の名前をよばないでください
あの時もうすでに終わっていた命
夏休みのプールの匂い
それから
冬休みのプラットフォーム
ながいながいコードをひきずって
たぐりよせてからまって
狂ったように音の中を歩いている
音しかきこえない
わたしたちはすでに音だった
わからない
それで充分だった
それだけですべては
もうすでに完璧
だった

どこか遠くにいきたい
ほつれていく
わからない
理由なんて
どこにもみつからなくて
そうやってすべては完璧になった

ここには
すでになんでもそろっていたので
全然ほしいものなんか一つもなかった
ここは永遠にとてもまぶしい場所
みつからない
「不在する存在」
「そこにない」ということが「そこにある」ということ

肋骨いっぱいに満ちてるサイダーの泡
数えていく
びっしりと生えてる信号機の下を走って
もう太陽に焼かれる必要なんかどこにもなかった

こころが
なめらかな海をとらえている
海なんか行ったってなんにもなかった
けれどわたしたちはそこをみつめていた
そこってどこのことだろう

ピンぼけのひとみがただ一面にただよっている
ぼやけてしわしわの輪郭
浮いている窓枠
からっぽの靴下
トンネルの中の口づけ
なだらかな地面
やすらかな骨たち
イチゴのショートケーキ
スケートリンク
泣ける映画
それらはもう全部
おれたちをむかえにくる必要なんてどこにもなかった

いつものように空が落ちてくる
この日々の安定からくる恐怖
この恐ろしさの中で
その恐ろしさとはもう
向き合いたくない
逃げたい
なのに
逃げる必要なんかどこにもなかった
そうやってすべては完璧になった

もう戻らない命たちと生き延びていくということ
って
なんのことですか

「欲求」を「失う」ということによって満たされていくリアルライフ
わからない
みつからない
「不在する存在」
「そこにない」ということが「そこにある」ということ

見えていない星
それらが
ばかみたいに頭上で朽ちていく
笑いながら
あふれながら
ただそこでこぼれ落ちて揺れている

ぼくたちはもう模様になって影になってただ漠然と絶望なんかしなくてよかった
わたしはもう朦朧として部屋の中央に立ちすくみながらさみしくなんかならなくてよかった


よかった
ただ目をこすって
それだけでそこはいつも海だった





 


自由詩 それだけでそこは海だった Copyright モリマサ公 2013-07-30 01:44:40
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