定・考
月乃助


夏の陽に 焼かれながら
後ろ手の 信玄袋をけつの下に
揺らし


女の背は 凛とし
黒紋付の羽織で、振り向くおもてが艶やかだった


名は、定
床上手の 女


傷つくことを最大限にさけるため
すべての幸せを否定する
女の花を束ね その代償か、
業のように背負ってきた


定のうちには、窓一つ 引き戸一つありもせず
ただ一面の女色は、朱
誰もがそこへの入り方をしらず
女は、そこより外へでる術をしらずにいた


色欲が充たされれば
悦びは、涙を生むもの
愉楽とは、そんなもの


虚しさが恐ろしくて
定を画に、線に写せば
線は、支配的に定の意味を付与する
曲線のはるかな つながり
波にも似た 潮の香りがわきたつ


冬のさむさの正月などでなく
定を抱く
この夏の 雷雨をきくこの褥から
一年をはじめたかった
誰もがこの女を希求し
それを手にすれば 一人 不安とならずにいられない


「「 今までは 自分を忘れて男と関係したことはありません。(定口述)


愛欲に執着する と
愛は、遠ざかる
定は、それに気づかない
それならば、
いつか この女の指紋が
おれの首にくっきりと 付く日がくる


その時は、
おれの男根ものは、切り取られ
宝物さながら かえしの中にしまわれる


「「 女として 好きな男のものを好くのは、
   あたりまえです。(定口述)


予兆の中に肌をあわせ 眠る
充たされた
女の寝息をききながら








自由詩 定・考 Copyright 月乃助 2013-07-16 22:40:34
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