彼と彼らの献身に
HAL
ある人物がこの世を去った
享年58歳 若過ぎる死だ
彼は組織人だった
その組織人が独断で命令に背き自分が為すべきだと信じたことを
中枢部の命令に従うと嘘を付いて進めた行為
もし彼が命令に背かなかったとき
この国の半分は 否 この国のすべてはどうなっていただろう
それは自分の部下の命を失うことだとも彼は知っていた
しかし彼は自分の経験と信念の為に自分と部下の命を
周辺に住む人々とこの国のひとの命を引き替えにすることを選んだ
彼が選んだのは年齢を重ねた部下だった
だが若い部下は去らなかった
共に行くとの意思を譲らなかった
それは彼の闘いに殉じても構わないという覚悟でもあった
彼はそんな部下を諭さなかった説得せず彼らを受け入れた
彼は組織人だった
でもそのとき彼はひとりの人間だった
プロフェッショナルであろうとする人間だった
彼の死を知って彼だけでなくそのときに
自分の職務を命を顧みることなく遂行した
自衛隊員や消防団のひとびとを我々は忘れ去っていなかったか
彼らの報いは求めないぼくらの為の献身という行為がなかったら
この夏がクソ暑いクソ暑いと文句を言っていられるだろうか
富裕層の為だけのアベノミクスに騙され浮かれていられるだろうか
あのときこの国の頂点にいた狡猾で無能な男は
彼に対して掛ける言葉があるなら
我々の愚かな記憶力の薄情も充分に認めて
もうすぐ8月6日と9日が訪れるなかで
聴いてみたいと想うのは果たしてぼくだけだろうか
※作者より
ぼくは彼の冥福を祈らない。
哀悼もぼくは捧げない。
ぼくにはその資格がないとの理由を以て。
それを非礼だと言うのだということも知っているが故に。