明るく短い径
木立 悟





水底につづく階段
溶け残るつらら
午後を咬むつらら


羽のしぐさ
空のひらき方
指をのばして
そっと試して


ひとつだけだよ
裏通りの声
違う人の 同じ言葉
こだまのように表をすぎる


埃は苦く
埃は白く
幾すじも互いをくぐり
空をくぐり


光のかたちのひとつが落ちて
風のなか 
向かう方を見ぬまま
ただ生まれ来る方を見つめている


曇の下の曇の島
囲いのなかの囲いたち
何を何から守っているのか
乳母車の赤子は口をつぐむ


秋を梳いた鉱の鏡に
動く水と動かぬ水の境いめに
昏い柱は立ちつづけ
光の波を浴びつづけている


待ち望まれ 動けない
窓の外の 赤銅色
流れる音 星の色
時を咀嚼する針の音


半月が
夜の上の夜を照らし
横たわり 汗ばみ
動かぬ水に降るものを聴く


歩くたび影は呑まれ 吐き出され
雨を招び 地図を溶かし
銀は残り 庭を覆い
誰も見ない 星をたどり


遅れて点る水たまり
死びとを乗せた路面電車
火花のひとつが宇宙のひとつ
あてどない髪と目くばせたち


むらさきたち たましいたち
降りそうで降らぬ午後を追い
街は何処かへ行ってしまった
足音や笑みや 時計を残して


雨の朝 径 岩の魚
器の水に映る空
命に至らぬ鼓動の明るさ
手のひらから手のひらへそそがれてゆく































自由詩 明るく短い径 Copyright 木立 悟 2013-07-05 08:45:29
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