あの猫の名前はマダナイっていうんだ
るるりら



*壱*マダナイへの手紙

「あの猫の名前はマダナイっていうんだ」と、教えてくれた人がいた。
ああ うわさは聞いたことがある。
明治の文豪の家に 飼われていたという 噂だった。
それで、手紙を書いた。

苗字をわすれたい私に みゃうと言ってくれてありがとう。
あなたに明治の文豪が名前をつけることは できなかった。
けれど、あなたの名前は マダナイです。
わたしは、生題ではなく未無いでもなくマダナイという名を
手がかりに旅をしています。

周極星の話を知っていますか。北極星のことです。
ラスコー洞窟にも 夏の大三角の星がありました。
ベェガも アルタイも いつの季節を問わず 空にあったことがあります。
あの星が周極星だったころのことを おぼえています。
織女星が北極星だったのです。

いまじゃあ織姫は周極星なんかじゃなくて 
恋愛の象徴として夏の大空で またたいています。 
ねえマダナイ、あなたも たった独りだったことを知っています。
いまは さびしくありませんか?
でも 今日は、手紙が描けて うれしかったです。
猫のマダナイ ありがとう。
また 君とは 逢える気がします。
手紙のそばに にぼしを置いておきます。
わたしは もう眠いけれど、
朝になったら ナマダイが来てくれると嬉しいな。

*弐*奇跡
朝がくると、私は向学心に目覚めていた。
自然と図書館行きの電車に乗った。
中央図書館の玄関に、ナマダイのことが書かれているではないか。
 
********企画展「復刻版で味わう日本近代文学展********************
*明治・大正・昭和初期に出版された日本文学の名著を
*復刻版でご紹介します。
*
*復刻版のほか鈴木三重吉の『千代紙』(明治40年)、三重吉の師
*夏目漱石の『吾輩ハ猫デアル』(上巻・明治38、中巻・同39年)、
*『三四郎』(明治42年 著者署名入)の初版本もあわせて展示します。
*****************************広島中央図書館*********************


*参*風貌
ナマダイは、エジプトの猫なのだろうか。その風貌はまるでパピルスへの記載のようだ。
たしかな生命力で じっと こちらを見ていた。

「どこで生れたかとんと見当がつかぬ。エジプトだったかもしれぬな。」と、彼は言った。
「そなた、いま 自身を織姫じゃと おもうたであろう?」


そんなことを ナマダイに、言われてしまったので
「me」と 猫語で応え、ショーケースごしにナマダイの頭をなでてやった。ナマダイの顔は こわおもてだった。けれど、その つぶらな目は
私の心の闇の底を やさしく 照らした。 

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初出「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)に投稿。

http://anapai.com/CGI/cbbs/cbbs.cgi?H=T&W=T&no=0

タイトルは 家政さんです。


自由詩 あの猫の名前はマダナイっていうんだ Copyright るるりら 2013-06-15 05:49:22
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