空焚きの鍋.
元親 ミッド

鍋に水を張り 火をかける。

沸騰するまでの間に とりあえず死んでみる。



グログロと煮立った鍋に 指を一本

千切って 落とし 再び1時間。



その間にリビングのTVを つけたまま

頭の上まで 持ちあげて 

ベランダから外へと放り投げる。



振り返れば空焚きの鍋は 地獄の釜だ。

転がっていた指は 炭になって

真夏のアスファルトの上で干からびた

トカゲのミイラのようだった。

それで仕方なく

僕は 乾いた口をようやく開く。



男の手料理なぞ かういうものぞ。



その時 携帯が鳴った。

もしもしとでれば 電話の向こうから

美しい女の声がする。

 

「ねぇ ここから 出して」



空焚きの鍋が開いてしまい

もう後戻りは出来ないのだと悟った。



電話の声の女が 空焚きの鍋を覗きこんでいる。

「だから 言った のに」



調味料は どこに置いたっけ?

その冷蔵庫は 開けない方がいい。


自由詩 空焚きの鍋. Copyright 元親 ミッド 2013-06-12 21:01:22
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