挽歌
イナエ

夏の庭には自然が蔓延る
カマキリが三角頭をかしげ
雑草が繁茂して人間の通り道をふさぐ
その葉裏からわき出る蚊 這い出すヤスデ
ときには蜂が茂みに浮かぶ花を尋ねて
低く飛行する

手入れした庭の美観を損ね
人間を襲うものたちを育てる蔓草に腹を立て
鷲づかみして引きちぎった 
葉裏には
小さな蜂の住処が在ることも
内蔵の透ける薄い皮膚の幼虫が育っていることも
気付かずに.
 数匹の小蜂が哨戒していたけれど
 虻ほどの羽音も立てず
 牛を殺すスズメバチほどの武器も持たず
 異臭ガスを噴出する装備もない小型機など
 目にも止めなかった視界の狭さ

手袋さえはめていない素手で
蔓草をめくりあげたおろかさ
指は縞模様の先鋒に攻撃され激痛に動転した

治療と報復に立ち上がったわたしの目は
夏の陽射しを蔓草に遮られてじめじめした地面に留まる
風を避け雨を含んだ病葉を這う白いイモムシ

人間につけられた名さへ 人間に忘れられた蔓草の
ひっそり開く花
の触媒となり子どもの食料を得て 
たがいの暮らしに力を貸し合い平和に暮らしていた小さな虫の 
精一杯鳴らした警告を無視し
逃げることなど出来ない幼虫を
握りつぶしたわたしの行為

周りを飛ぶ蜂の声が聞こえる
  たとえ嫌われているとしても
  人間たちとは争いたくないんだ
  蟻の餌となった幼児の追悼と
  この地を立ち去る惜別の
  挽歌は 聞かれたくないんだ
 

          


自由詩 挽歌 Copyright イナエ 2013-05-31 09:36:51
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