いらない夜に
ホロウ・シカエルボク




この夜
この場所で
眠ろうと試みているのは
この俺によく似た
なにかであり
見たところ
そいつは
試みに
成功していない


外は小雨が降っていて
風が強い
一時間前には
ひとりの女が
大声で泣きながら
通り過ぎていった
たぶん
素面ではないだろう
知り合いでもないのに
そいつは
しばらく耳をすませていた
理由は判ってる
泣き声は
他人のような気がしない


試みを諦めて
デスクトップの電源を入れ
この詩を書いているのだ
文字列の中に
眠るヒントが
隠されているのかもしれないという
そんな
態度で
もちろんそこには何も隠されてはいない
消すのが難しい火のような
くすぶりが
青い火花を上げているだけで


そいつは
今は無い接続端子の
片割れを持った
スピーカーコードみたいなやつで
当然のことながら
たいていのアンプとは
繋がることが出来ない
コネクト出来ない時の
特有のノイズを聞きながら
ああ、またか、と
そう
思うのだ


時刻は午前三時で
そんな時刻が出てくる詩を
そいつは
前にも書いた気がする
そう
確かに書いた
手足の無い男か
オクタゴンに入る映像の詩だった
午前三時
午前三時は
短い言葉を
モールスのように並べさせる
それは確かに
信号のようではある
でも
どこに向けてのものなのかは
誰にも
判らない


この夜
この場所で
せめてもの詩が生まれる
そしてそれは
生まれた時から死んでいるようなものでもある
あるいっときの
わが身の
埋葬のために
そいつは
詩人であろうとするのだ


睡魔は
まだやってこない
きっと




夜明けを見てしまうのだろう





自由詩 いらない夜に Copyright ホロウ・シカエルボク 2013-05-28 03:14:16
notebook Home 戻る