バッテラ譚
平瀬たかのり

 ぼくはカウンターに肘をついて給料日
 それこそは至福のときだ
 さっきからボックス席の爺婆父母長男次男長女が
 やかましく
 カンパチヒラメ鳥貝シマアジウニ軍艦
 赤だし鶏カラ揚げエビチリミニうどんプリン
 なんぞをそれはやかましく
 注文しているが気にはならない
 あくまでつつましやかに
 おまえがやって来ているからだ
 明治二十六年、大阪順慶町の鮨屋が
 コノシロを乗せたおまえのご先祖に
 ポルトガル語の名を付けたという
 まったく鮨屋の大将こそ詩人だったよ
 なんて思いながら
 手酌の瓶ビールそれもサッポロ黒ラベルをば
 月に一度のご贅沢ぬっふふふ んふふんふん
 おまえはしずしず進んで来る
 爺婆父母長男次男長女は目もくれないしそれでいい
 あらま気づかなかった目の前にビンチョウマグロ
 大トロ中トロ赤身何するものぞおまえこそ
 では本日まずはっと手を伸ばしたら
 二艘の小舟にひとりずつ乗った天女さま
 白板昆布のシースルーでこっち見てぷんすかぷんすか


自由詩 バッテラ譚 Copyright 平瀬たかのり 2013-05-21 19:28:34
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