(5)アーヤと森とふしぎなひかり
吉岡ペペロ



木々のむこうにひかりがのぞきはじめました

あのひかりの向こうがヒョウスケくんの家です

アーヤは早歩きになりました

転ばないようにアーヤは足もとを確認しました

あ、

アーヤはちいさな声をあげていました

土色にはいつもの森のひかりしか見当たらなかったのです

ひかりのリングも欠けた月の模様もなくなっていたのです

森がもうすぐ終わります

森の終わりに外からのひかりが満ちてきます

アーヤはじぶんがまだ森を抜けていないことがふしぎでした

マヨネイズたちがアーヤのからだに人懐っこくまとわりついてあふれています

マヨネイズたちがアーヤの顔をぺろぺろとなめています

アーヤはなんだか自由でなんだか窮屈なふしぎな気持ちになりました

外のひかりのあったかさが森のひんやりと入れ替わりそうでした

木々のあいだにはっきりとヒョウスケくんの家が現れました

久しぶりだなあ、ヒョウスケくんの家、

アーヤはどきどきしてきました

マヨネイズたちがあったかいひかりに溶けそうでした

それでもマヨネイズたちはアーヤから離れません

もう目の前には数えきれるぐらいの木々しかありません

アーヤは外のひかりに吸い寄せられるようでした

マヨネイズたちがアーヤからいっせいに離れました

アーヤが太陽のひかりに包まれました

森を抜けたのでした

アーヤはぽつねんとヒョウスケくんの家のほうを見つめます

ヒョウスケくんはいませんでした

ヒョウスケくーん、

アーヤが心細い声をあげます

もう帰ってるんでしょ、ヒョウスケくーん、かくれてるのー、

アーヤがきょろきょろしながらヒョウスケくんの家に近づいてゆきます

ヒョウスケくんの家が右に左にかたむきながら近づいてきます

ヒョウスケくん、

アーヤがさいごひとりごとのようにつぶやくと家のなかからヤンおばさんが姿を見せました

アーヤちゃん、もう来てくれたの、

うん、お母さんのパンと、あ、ジャムはさっきヒョウスケくんに渡してしまったんだ、

さっき?

うん、まあるい芝生で、ヤンおばさん、ヒョウスケくん、まだ着いてない?

ヤンおばさんがアーヤをしげしげと見つめていました

それからひざをつきアーヤを抱きしめました

ヒョウスケ、さっき、

アーヤは知らぬうちにヤンおばさんの頭に手を置いていました

ヒョウスケ、さっき、死んじゃったよ、

アーヤはヤンおばさんの頭に手を置いたまま空を仰ぎました

うそ、うそ、

おとといから熱が下がらなくて、もう、なんにも喋ってくれない、

さっき見たときからヤンおばさんは目を泣き腫らしていました

まあるい芝生で、会ったよ、あたし、ヒョウスケくんと喋ったよ、

ヤンおばさんが立ち上がりました

ヒョウスケと?

ヒョウスケくん、急に元気になって、いなくなっただけだよ、

ヒョウスケは、さっき亡くなったのよ、

アーヤにはもちろん信じられませんでした

ヤンおばさんのあとについて家に入りました

ヒョウスケくんがどっからかおどかしに出てくると思っていました

ヒョウスケくんの部屋をあけるとベッドのうえにヒョウスケくんが休んでいました

きょう一日が遠い過去のように思えました

アーヤちゃん、

ヤンおばさんがアーヤに声をかけました

聞こえない、

アーヤが叫びました

森で迷子になってるだけ、ヒョウスケくん探してくる、

アーヤはそう言ってヒョウスケくんの部屋から走り出ました


アーヤはヒョウスケくんの家のなかを駆け抜けてそとに出ました

ヒョウスケくんがどこからか現れてアーヤをおどろかすはずでした

けれどヒョウスケくんはおどろかしてはくれませんでした

それなのに突然おどろかされたようなどきどきがやみませんでした

アーヤはヒョウスケくんの家を振り返りました

ちょうどヤンおばさんがおもてに出てきたところでした

アーヤを見つけるとゆっくりと歩いてきます

アーヤはヤンおばさんにむかって走り出しました

ヤンおばさんに飛びつくとヤンおばさんがふわっと浮いたようになりました

アーヤちゃん、ヒョウスケと、さいご、遊んでくれたんだね、

さいごじゃない、

アーヤは頭をヤンおばさんに擦りつけて言いました

森で迷子になったら、まあるい芝生に、マヨネイズたちが連れていってくれるから、

泣いてはいけないのにアーヤは泣いていました

まあるい芝生で、ヒョウスケくん、待つ、

アーヤにとってそれはヒョウスケくんを探す確かな方法でした

アーヤ、

うしろを振り返るとお母さんが森から現れたところでした

伝書鳩の手紙を見て、びっくりしたわ、ほんとに、なんてことに、

そう嘆きながら近づいてアーヤをはさんだままヤンおばさんを抱きしめました

ひとりになっちゃったよお、ヒョウスケが、ヒョウスケが、

ヤンおばさんが泣きじゃくるのをアーヤはたえていました

お母さんも泣いています

大人たちが諦めていることにアーヤは怒りが込み上げるのでした

なに言ってるの、そんなこと、ないからあっ、

アーヤは声をふりしぼりました

そしてふたりの間を抜けて走り出しました

うしろでお母さんの声が聞こえます

アーヤが森のなかに吸い込まれてゆきました

まあるい芝生に向かって吸い込まれてゆきました


携帯写真+詩 (5)アーヤと森とふしぎなひかり Copyright 吉岡ペペロ 2013-05-19 10:35:02
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