(3)アーヤと森とふしぎなひかり
吉岡ペペロ

まあるい芝生のいちめんに水色の空からひかりが降りそそいでいます

アーヤはさっそく太陽を見上げ太陽が動く方向を見つめました

まあるい芝生のぐるりは森でした

森のなかにまあるい芝生があるとも言えました

アーヤはヒョウスケくんの家の方角に見当をつけました

つぎの森への入り口を見つけたのです

ヒョウスケくんの家にゆくのは半年ぶりでした

太陽の動きは日々微妙に移り変わっています

だけどアーヤは知っています

ヒョウスケくんの家はいまの季節の太陽の動く方角ぴったりにあるのです

アーヤ、天才!

アーヤはじぶんでそう言って胸をはり小鼻をふくらませました

うん、アーヤは天才だよ、

声はアーヤのすぐよこからでした

え、え?ヒョウスケくん?!?

ヒョウスケくんがVサインをしています

アーヤ、待ってたよ、

え、ヒョウスケくん、どうしたの、ありがとう、

アーヤはすこし慌てていました

ずっとまえ、アーヤ、ごめんね、

Vサインを声に合わせてふりながらヒョウスケくんが言いました

Vサインはヒョウスケくんの照れ隠しかも知れません

ヒョウスケくん、風邪じゃないの、

風邪なんか、もうひかないよ、おいしそうなパンの匂いがする、

うん、パンとジャムとバターが入ってるよ、

アーヤは買い物ぶくろをあしもとに置いてヒョウスケくんになかみを見せました

ヒョウスケくんが懐かしそうな顔をしています

ふたりで、すこし食べようよ、

アーヤはそう言ってヒョウスケくんとまあるい芝生の真ん中に仲良く座りました

木々の葉がふたりのまわりでぐるぐる風の音を立てています

アーヤはパンをちぎって大きなほうをヒョウスケくんに渡しました

やっぱりおいしいなあ、おばさんのパン、

大好きだもんね、ヒョウスケくん、

うん、アーヤの声にも、気づかなくなるくらいね、

あ、ヒョウスケくん、意地悪、

ふたりがどうじに笑いました

雲ひとつない水色の空でした

まあるい芝生にはお昼を過ぎたばかりのひかりが降りそそいでいます

風が強くなってきたのでしょう

木々の葉ずれが波音のようです

ふたりのパンを食べる音が木々のせせらぎに包まれています

アーヤはずっとまえヒョウスケくんが言っていたことを思い出しました

ぼくはさ、おばさんのパンの味も好きなんだけど、じぶんのパンを食べる音も好きなんだ、

だからヒョウスケくん、いつもムシャムシャ音たてて食べるんだ、

音も食べれるんだよ、

わ、すごい!あたしもこれから、音食べる!

アーヤが思い出し笑いをしているとヒョウスケくんが言いました

楽しいね、

うん、楽しいね、

アーヤは心からそう言いました

そう言ったあとなんだか寂しいような居心地のわるさを感じました

ヒョウスケくんと仲直りできたのに、なんでだろう、

そんなことを考えていたら芝生いちめんのひかりもアーヤには薄らいで見えてくるのでした



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ヒョウスケくん、なんだかひかりが、薄くなった気がしない?

アーヤは不安になってヒョウスケくんに言いました

うん、

ひかりもそうだけど、影も薄くなってない?

うん、

ヒョウスケくんのパンを食べる音が聞こえなくなりました

アーヤはこわくなってヒョウスケくんを見ることができなってしまいました

芝生のうえのふたりの影を見つめました

やっぱりさっきより影が薄くなっているようでした

すこしだけ、迷いネズミさんたちがいなくなったんだよ、

ヒョウスケくんの声がします

迷いネズミじゃないよ、マヨネイズだよ、

だから、迷いネズミ、

ちがう、マヨネイズ、でも、ま、いっか、

せっかく仲直りができたのです

アーヤはこれ以上言うのをやめました

ひかりの妖精さん、いなくなってしまったのかな、

うん、すこしのあいだだけだけどね、

アーヤは空を見上げました

雲ひとつない水色の空に太陽が輝いています

アーヤは芝生を見渡しました

やっぱりひかりが薄くなっているような気がします

影まで薄くなっているような気がします

ふしぎなひかり、

そうアーヤがつぶやきました

うん、アーヤと見たかったんだ、

このひかりを?ヒョウスケくん、きょうひかりが薄くなること、知ってたの?

さっきさ、迷いネズミさんたちに、教えてもらったんだ、

そうなんだ、

森の木々の葉擦れの音が風をつたえています

アーヤは立ち上がりました

そして芝生のぐるりをしずかに見渡しました

ひかりが薄くなっているからでしょうか

アーヤは風がつめたくなっているのを感じました

ヒョウスケくん、行こう、

アーヤが振り向くとヒョウスケくんがいませんでした

え、ヒョウスケくん、

アーヤはからだをくるくるまわしてヒョウスケくんを探しました

ヒョウスケ、くーん、

アーヤはなんだか楽しくなりました

ヒョウスケくんって、こんなに足はやかったっけ、

薄いひかりのなかでアーヤはなんだか懐かしい気持ちになりました

ヒョウスケくんとよくかくれんぼをしていたことを思い出しました

ヒョウスケくーん、ヒョウスケくんのおうちに、どっちが早く着くか、競争よー、

アーヤは買い物ぶくろにパンをつめなおして肩にさげました

あれ?

買い物ぶくろが軽くなっています

あ、ヒョウスケくん、ジャムとバター、とったなあ、

アーヤはにやっとしてからお腹に力をこめました

そして森の入り口に走り出しました




自由詩 (3)アーヤと森とふしぎなひかり Copyright 吉岡ペペロ 2013-05-19 10:20:21
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