吊り橋
イナエ

吊り橋の真ん中で二人は懐中電灯を消した
月も山の木立に光を隠した

手を延ばせばそこには異性がいた
何時も顔を合わせている相手だったが

不意に訪れた二人だけの世界に戸惑って
互いに黙ったまま
闇に沈んだ川の方を眺めていた
二人の間にせせらぎが流れていた

ほんの少し風が吹いて バランスが崩れたら
お互いがもっと身近になっただろうに

風も緊張してか そよともうごかなかった
吊り橋は身をかたくしてゆらりともしなかった
二人は無言で 星の見えない空を見上げた
二人の中をいくつもの言葉が
せせらぎに乗って流れ去った

二人は言葉を無くしたまま
どちらからともなく橋を渡りはじめた
吊り橋がかすかに揺れた 
けれども…

二人は たがいの距離を保ってゆれて渡った
あかりもつけないで


自由詩 吊り橋 Copyright イナエ 2013-05-18 11:26:07
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