はじまりはいつも、はじまりすぎている。
凍湖(とおこ)

赤ちゃんの髪の毛のように頼りなく
やわらかい抱擁に
「あい」というなまえをつけてみるこころみ。

おずおずとしたやさしい腕の持ち主を、見上げる。
いちねんまえの初夏の木陰で、透明な涙が光っていた頬と、おなじかお。

たぶん
まぎれもない
あなただ。

一分のすきもなく、あるいはすきだらけなので
この頼りなさで、稲妻のように卒然と悟る。
ずっとまえ、いちねんまえ
ううん、それよりもっともっとまえから
このこころみはすでに、はじまっていたのだ。

雨水が、地下で合流し、やがて湧き水になるように
目にみえないうちに、はじまって
気がついたら、燦然と、在った。
いまこのように、劇的に、ずっと。


自由詩 はじまりはいつも、はじまりすぎている。 Copyright 凍湖(とおこ) 2013-05-16 17:03:54
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