群青「緑」の詞 感傷
木原東子
夕茜の
明るい目裏をみながら
ヘッドフォンの中にたてこもり
やがてしっかり目を瞑って
頭の中の音だけに浸った
天才たちが残してくれたメロディと
テキストの感傷を
ああ、天才でもないのに
何か残せるかなんて
もうやめよう
花の写真一枚もないけれど
庭には名もなき微小の花
風のよく吹くこの半島に
散骨する場所があるという
知ってから
安心と淋しさの風が吹く
薄い下弦の一切れが
どこかに何とかかかっているのだろう
月の動きを思い描くのは難しい
網を投げても投げても
魚は釣れない、手ぶらなままだ
目を開けると
真っ暗な部屋だった
いつの間にか日没だった
子どもの日といい立夏という
どこかにある早緑、柿若葉、青もみぢ
霧の降る夜がきた
苧環の葉の水玉よ
香り始めた白いすみれよ
喜びも心配もある
理不尽よ、顔をだすな、通り過ぎてよ
きのうは楽しかった
今日は絶望に醒める
明日は皆目不明
すべて無駄な努力
君たちへの愛だけが残るのだろう
マッチ箱のような
ガラスの家が好きだ
でも心はしだいに
しおれてくる 君がもう
希望を見ないようになったのに似て
南房総の岬のあたり
菜の花がおいしかったと
北国出身の漁師が住みついて
小さな鰯を獲る
いかにも量子の海という水面