酔い泥船
……とある蛙

          
順調に河をくだっていたはずだが
気がつけばこの船は
豪華絢爛な泥船で
狸顔したチワワ数匹
キャンキャン喚きながら
不安定な船の中で走り回り
客の老若男女たち
口々にご立派なことを叫びながら
ばらばらにみな右往左往していた

終(つい)に船は沈みだした。

船に積んであった
秋田こまちや郵便物
高級なブランド服や
靴や帽子は
水に濡れそう、お釈迦になりそう
立派な市民の老若男女は
皆我先に逃げるときも
それをちゃっかり掠め取り
そのまま人を踏みつけて
自分の正義を振り回し、
ところが、舟が沈まなくなると
積み荷をそばにかき寄せて
豪華な昼飯を食らう

泥船は雄々しく
大河を下って行くのだが
決して川は静かではなかった。

つい昨春 
荒れ狂う津波の砕ける音のなかを
立派な市民の老若男女
そのまま脳髄が
破裂してしまって
ただ意味もないことを口走る。
お為ごかしの同情と
訳知り顔に自己本位
自称正義も振り回し、

結局 この泥船は
怨嗟と同情、訳知り顔
正義と悪徳、狡猾と
怠惰混乱の宝庫となる

實はこの泥船は
全く漕ぎ手舵取りだらけなので
二進(にっち)もサッチモ
あら運座ワールド
泥船は進まなくなった。
進まない泥船は沈没する
また泥船は沈み出す。

いっそ河の氾濫が
全てを海まで流してくれないかと
思う間も無く 泥船は突然流されて
河口を一気に滑り落ち
ゆったりとした流れある
海面まで行き停止した 

その時間が一瞬なのか永遠なのか
停止した泥船の中の
自称正義の老若男女にはとんと分からず、
そんな困惑の中 泥船の中で訳知り顔の俺たちは
軽やかなステップで踊りに踊った
いつ沈むか分からない不安や将来の行き先や
絶望希望失望願望




ゆらゆら浮かぶ海面の妙な静けさ深刻さ
不気味な停止が永遠に継続しそうな
満月の夜よる 希望の波止場の灯には眼もくれず
・・・・・
漂流物のように漂う泥船の切っ先で
俺は叫ぶ 何かを叫ぶ
それから俺は天空の満月に向かって
身を投じた
漆黒の夜空の中央に
当然のごとく存在する大きな月
それて夜空に消えることも無く
そのまま月に体が吸い込まれ
意識が戻った時には
俺は甲板の中央に大の字になって
夜空を見上げていた。

船の中は水死人がゴロゴロ引き上げられ
皆一様に甲板から夜空を見上げ
皆一緒の舟にいるのだと気づき
またやり直そうとするのだが
すでに」
甲板は異様な匂いに包まれた
言葉は言葉にならず吐瀉物となった




結局船はそのままで
漂い続け何処(どこぞ)へ
消え去った。
月の輝く夜の海
そのまま舟は漂った。


自由詩 酔い泥船 Copyright ……とある蛙 2013-05-09 10:20:03
notebook Home 戻る