暗闇
ウデラコウ

日の当らないところから 青い空を見るのが好きだった
なんだかおかしなことをしているような気がして
薄暗い部屋のなか 路地の裏 森のなか
周りの黒に囲まれて 切り取ったように青い空が好きだった

そうしていると なぜか
自分だけ取り残されているようで でも
手を伸ばせば 助かるような気がして
なんだか 選ばれた人間のような気分になっていたんだ

あの頃は
薄暗いその場所が 僕の唯一の場所と決めていて
そこから動くこともせずただ
青い空だけに 憧れていた

夜がくれば 明けるのを待ち
雨がふれば あがるのを待ち

そうして ずうっと
呼吸を止めるまで そうしていると 思っていた

だけど ある日ふと
もっと広い空が見たくなって
窓を少しだけ 大きく開くと

憧れていた空はもっと輝いて見えて
もっともっと 輝くのを見たかったので
僕は

薄暗い部屋を抜け出した

僕の周りから黒が消えて 明るい場所までくると
どれだけ輝くのかと期待して 見上げた空は

あまりにも 普通のものだった

僕は輝かない空に 酷く落胆して
もとの場所へ戻ろうと思ったのだけど

僕の周りが
赤や黄色や緑と
色とりどりに あまりにも鮮やかなものだから
それにばかり 目を奪われていたら

戻る術を 忘れてしまった


そうして 僕は
薄暗いあの場所を出て
もうずいぶんと 経つのだけれど

あの頃 唯一美しかった 青い空以外にも
美しいものは 溢れていると知り

そして

ずっと ずっと 当たり前だと思っていた

黒の美しさ 夜の美しさ 暗闇の美しさに
気付いた

危うげな 僕のように すぐにでも消えてしまいそうな
だけど

青や赤や黄や緑を

際立たせる

黒の美しさに

ようやく 気づけたんだ


自由詩 暗闇 Copyright ウデラコウ 2013-04-26 11:15:33
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